小説「サークル○サークル」01-279. 「加速」

 シンゴは書斎に戻り、大きな溜め息をついた。
 椅子に腰をかけ、パソコンを起動させる。
 起動音が鳴り、画面が表示されると、パスワードを入力し、いつものようにワードを立ち上げた。
 並んでいる文字を見ながら、シンゴは文字を打とうとして、手を止めた。アスカのことが脳裏を過ったからだ。
 あの時、あのタイミングで書斎に戻るというのは、不自然だったかもしれないと思ったからだ。せめて、キッチンを片付けてから、書斎に戻れば良かったと思う。
 けれど、温泉旅行をあんなに嫌そうな顔をされて、平気でいられるわけがない。
 シンゴはこんなにもアスカのことが好きなのだ。好きなのに、その相手には別に好きな人がいる。
 恋人同士だとしたら、まだ諦めもつくけれど、結婚しているということが、想いの複雑さをより深いものにしていた。
 シンゴはもやもやした気持ちを振り払うかのように、パソコンに向かった。
 白い画面が文字で埋まっていく。その光景を不思議だと思いながら、シンゴはひたすら文字を打ち続けた。


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