小説「サークル○サークル」01-277. 「加速」

「ごめんね。こんな話して」
 アスカは少し困ったような顔をして言った。きっと作り笑いをしているつもりなのだろう。そんな不器用さにシンゴは、ふと本当はこんなに不器用なアスカに浮気なんて器用なことが出来るのだろうか、と不思議に思う。
 けれど、すぐにシンゴの頭には別の考えが過ぎる。彼女は別れさせ屋なのだ。男女関係のことに関しては、器用不器用は別なのだろう。シンゴは自分をそう納得させた――はずなのに、どこか腑に落ちない。シンゴは一体、なんの為に尾行をするのだろう……と一瞬考え込みそうになったけれど、シンゴはそれ以上深く考えなかった。考えたって、自分1人の考えだけでは、堂々巡りになってしまうからだ。
「気にすることはないよ。少し疲れてるんじゃない?」
「……確かに、今回の案件も山場だし、プレッシャーもすごく感じてて、最近、夜中でも何度も目を覚ましちゃうのよね」
 アスカは視線を床に落とし、少し困ったように笑って言った。


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