小説「サークル○サークル」01-280. 「加速」
- 2013年05月22日
- 小説「サークル○サークル」
- サークル○サークル
余計なことを考えたくなかったからだろうか。気が付けば、シンゴは数十枚の原稿を書き上げていた。
コーヒーでも飲もうと書斎を出ると、すでにアスカの姿はなかった。シンゴは溜め息をつく。それは安堵からくるものなのか、落胆からくるものなのか、よくわからなかった。
シンゴはキッチンに向かう途中、ふいにダイニングテーブルの上に置いてある紙が目に入った。なんとはなしにそれを手に取る。それはアスカからの置手紙だった。
そこには整った字で“仕事に行ってきます。今日は夜、事務所に寄って帰宅しないかもしれないので、心配しないで下さい”と書かれてあった。
事務所に寄る? とシンゴは眉間に皺を寄せた。ターゲットとの密会の間違いではないだろうか。そんなことを考えて、シンゴはふっと自嘲した。
電気ケトルに水を入れ、スイッチを入れる。湯を沸かし始める音が聞こえた。
ソファに座り、テレビを点けると、見慣れたワイドショーが芸能人のゴシップを伝えているところだった。