「別れさせ屋の女所長の元に一人の依頼者がやってくる。その依頼者の夫は浮気をしているから、別れさせてほしいというのが、依頼内容だった。いつもの仕事内容と然して変わらないことに安心しつつ、女所長は依頼を受けた。けれど、業務を遂行していくうちに女所長はどんどんターゲットである依頼者の夫に好意を持っていって――っていう話だよ」
「それ、続きが気になります! でも……」
「でも?」
ユウキは少し戸惑ったように言葉を続けた。
「今までの作風と雰囲気違いますよね」
「そうかな……」
言われて、シンゴはでっち上げたストーリーだから、仕方ないな、と思った。
「いつ頃、発売なんですか?」
「それはまだ決まってないんだ」
書きもしていない小説の発売日など決まっているわけもなかった。シンゴは目の前にいる青年のキラキラした目を見て、ほんの少し罪悪感を抱いた。目の前の読者は自分の作品が読める日を楽しみにしている。けれど、小説など書いてはいなかったし、でっちあげたストーリーは自分の身近に起きている事実だった。これがもし事実だと知ったら、目の前
青年はきっとがっかりするに違いない。自分のしてしまったことに、シンゴはなんだかいたたまれない気持ちになっていた。
「発売日決まったら、教えて下さいね!」
そう言って、ユウキは無邪気に笑った。その笑顔がユウキと別れた後もシンゴの心の中に随分と長い間、留まっていた。
「別れさせ屋の女の話を書いているんだ」
咄嗟に出た言葉に、シンゴ自身も驚いた。それは紛れもなく、自分の妻のことだった。別れさせ屋という職業についてならば、いくらだって、いろんな説明が出来る。シンゴが自分の仕事以外で最も――編集者という一番身近な仕事関係者を除いてという意味だが、知っている職業だったからだ。
「別れさせ屋ですか?」
「そう。少し変わった主人公だろう?」
「そうですね。そんな小説は今まで読んだことがありません」
「探偵と少し迷ったんだけど、別れさせ屋は別れさせることに特化している分、面白いかなって思ったんだ」
「ってことは、恋愛小説ですか?」
「恋愛小説……になるのかな……。いまいち、僕はジャンルに疎くってね」
「どんな話なんですか?」
「どんな話か……」
「言える範囲内でいいので、教えて下さい!」
ユウキにせがまれて、シンゴは腕を組み、しばし考え込む。それはいくらかポーズを含んでいた。すでにシンゴは話す内容を決めていた。決めていたというよりは、それしかなかったといった方が正しかった。
「新作、書かれてるんですか?」
「あぁ、今、ちょうど書いているところだよ」
そう言って、シンゴはしまった、と思った。特に何かを書いているわけではなかった。依頼がないということもあるが、何より書きたいものが今の彼には見つからなかった。何を書いていいのかわからない。小説を一年に何冊も書いていた時は、そんなことが自分に降りかかるなんて思いもしなかったけれど、現実に今、シンゴは書くべきことも書きたいことも見つけられず、主夫業に専念している。作家として、仕事はしたい。けれど、自分の引き出しが空っぽになって、何も出てこなくなってしまったのだ。空っぽの引き出しはいくら開けたって空っぽのままで、とうとう何も出て来ることはなかった。そして、今に至る。
「どんな話を書いてるんですか?」
「……」
ユウキに訊かれて、シンゴは咄嗟に言葉が出てこなかった。何も書いていないのだから、何も答えられなくて当たり前だ。どんな話かをでっちあげるには、少しの時間が必要だった。
「すみません……。そんなこと、俺に言えないですよね」
「いや、少しくらいなら、大丈夫だよ」
そして、シンゴは書いてもいない小説の話を始めた。
こんにちは☆
Hayamiです。
本日、「サークル○サークル」107話が配信されました。
そして、すでに6月も4日目です。
早いですね!!
今月終われば、今年も半分が終わっちゃうってことなんだなーって思うと、
やらなきゃいけないことも、
やりたいこともまだまだ残っていることに気が付きます。
先日も告知させていただきましたが、
「めぇぷる べりぃ」というインターネットラジオ番組を
先月から開始させていただいております。
まだ、聞いてないよ! という方はぜひぜひ聞いてみて下さい☆
こちらから↓
http://tinychain.com/?page_id=1231
お便りの宛先↓
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お便りまだまだどしどし募集しております!
あなたの熱い1枚をお待ちしております!!
≪お知らせ≫
個人ブログ「Hayami’s FaKe SToRy」にて、
お仕事依頼・作品感想用メールアドレスを設置しております☆
アドレスはhayami1109@gamil.comです。
作品の感想等送っていただけますと幸いです。
メールは直接私のところまで届きます☆
≪番外編のお知らせ≫
番外編「ドライフルーツ・シンキング~マンゴーな過去に~」はもう読んでいただけ
たでしょうか?
作家のシンゴの視点で語られるアスカとのなれ初めや、
シンゴが考えていることを物書きとして描いている、というお話です。
全10回となっておりますので、ぜひこちらも併せてご覧下さい☆
メールドレス登録はこちらから↓
http://tinychain.com/?page_id=382
次回、108話もよろしくお願い致します☆
「おにぎりは気にしないで下さい。タダでもらってきたものですから。鮭とたらことツナマヨどれがいいですか?」
「じゃあ、鮭で」
「はい、どうぞ」
ユウキはがさがさとビニール袋から鮭のおにぎりを取り出すと、シンゴに手渡した。続いて、自分のたらこおにぎりも取り出すと、包装を慣れた手つき取り外した。
「ありがとう、いただきます」
シンゴもユウキに少し遅れて、おにぎりの包装を外し始める。
「それにしても、こうやって、コンビニ以外で会えるのって新鮮ですよね」
「確かにそうだね。生まれて初めてだよ。店で知り合った店員さんとご飯一緒に食べるの」
「オレも初めてです。しかも、憧れの作家さんと一緒なんて」
ユウキが嬉しそうにおにぎりにかぶりつくのを見ながら、シンゴは不思議な気持ちになった。売れなくなり、書店にさえ、過去の作品が数冊しか置かれなくなった自分のことをこんなにも憧れているのだ。隣で楽しそうに喋る彼を見ていると、このままではいけない、と思った。作家としてやるべきことをしていないのではないか、とシンゴは胸の奥が痛むのを感じていた。