「どうしてですか!?」
納得出来ないといった口調でユウキはシンゴに詰め寄る。
「どうしてって、そんなことしたっていいことは何もないからだよ」
「シンゴさんは奥さんの浮気現場を押さえる為に尾行していたんですよね?」
「ああ、そうだよ」
「だったら……」
「だから、やめた方がいいって言ってるんだよ」
シンゴの呆れとも悲しみとも取れない複雑な表情を見て、ユウキは思わず黙った。
「でも……」
「不倫現場を押さえて、“不倫はやめた方がいい”と君が言ったとする。けれど、彼女は不倫をやめるかな?」
「熱意を持って、説得すればきっと……」
「それは君の理想だろ? 不倫がいけないことだってことは、彼女も重々承知のはずだ。けれど、わかっていながら、彼女は不倫をしている。そんな彼女が簡単に不倫をやめられると思う? 僕はそうは思わない」
「……」
ユウキは何も言わなかった。シンゴの言葉がぐさりと胸に突き刺さり、何も言えなくなってしまったのだ。
シンゴは返す言葉を探したけれど、上手い言葉が見つけられない。小説を書く時はあんなにも言葉が溢れるのに、話すとなると、なかなか上手くいかなかった。シンゴは沈黙に耐えられなくなりながら、芝生を駆けまわる犬に視線を向けた。動き回る犬を目で追えば追うほど、考えがまとまらなくなっていく。
沈黙に耐えられなくなったのか、ユウキが真剣な面持ちで話し始めた。
「だから、シンゴさんと一緒に尾行して、尾行のコツを掴みたいっていうか……」
「ちょっと待って。君はその女の子を尾行しようとしてるの?」
シンゴは眉間に皺を寄せて、ユウキを見た。ユウキは真剣な面持ちのまま、シンゴを見て、一つ静かに頷いた。
「……それは、その女の子の不倫現場を押さえたいから?」
「はい、その通りです」
ユウキの返事には重みがあった。相当、思い詰めているらしい。シンゴはそんなユウキの気持ちを想像し、溜め息がつきたくなった。
「やめた方がいい」
シンゴは駆け回る犬に再び視線を向けて言った。犬は楽しそうに飼い主の投げたフリスビー目がけて、ジャンプしたところだった。
みなさん、こんにちは。
森野はにぃです。
本日、「ワンダー」が配信されました。
今月ももうすぐ終わり!
ということで、もうすぐ、今年最後の1ヶ月がスタートです。
皆さんは今年やりたかったことが出来ましたでしょうか?
私はまだまだやり終わっておりません。
ということで、引き続き、年内に達成するべく、頑張ります☆
皆さんもぜひぜひラストスパート頑張ってくださいね!
それでは、引き続き、「ワンダー」をお楽しみ下さいませ☆
「好きな女の子が不倫?」
「はい……。不倫なんてやめさせたいんです。だけど、どうやって、やめさせたらいいかわからなくて……」
「君とその女の子とはどういう関係?」
「幼馴染です」
「幼馴染か……」
シンゴは腕を組み考え込む。きっとユウキはずっとその女の子のことか好きだったのだろう。けれど、女の子はユウキをただの幼馴染としてしか見ておらず、ユウキの一方通行の恋になっているに違いない。よくある話だ。けれど、よくある話で済ませるには、ユウキが少し不憫だとシンゴは思った。
「どうして、君はその女の子が不倫しているとわかったの?」
シンゴの質問にユウキは俯いたまま、答え始める。
「見たんです」
「……何を?」
「彼女と男がホテルに入っていくところです」
ユウキのその顔には悔しさが滲んでいた。
「けれど、それだけじゃ、不倫しているということにはならないんじゃないかな?」
「いえ、オレ、その男がお腹の大きな別の女の人と歩いているところを見たことがあったんです」
「……でも、それが奥さんだとは限らないだろう? お姉さんとか妹だという可能性だってある」
「……あの雰囲気は違います。オレにはわかるんです」
言い切るユウキにシンゴは頭を抱えていた。ユウキの思い込みである可能性の方が大きい気がしていた。
「尾行はもうしないんですか?」
「いや、それを今、悩んでいるところなんだ」
シンゴは神妙な面持ちで言った。ユウキは思わず息を飲む。
「悩んでると言うと……?」
「尾行して知りたい真実がある。けれど、尾行がバレた時のリスクはかなりのものでね。どちらを優先するべきか、迷いどころなんだ」
シンゴの言葉にユウキは深々と頷いた。
「シンゴさんもとても悩まれているんですね」
「僕も……ってことは、君も何か悩み事でも?」
シンゴは少し驚く。シンゴの疑問にユウキは俯き、黙った。ユウキの意外な反応にシンゴは思わず口を噤む。シンゴはユウキが話し出すのを静かに待っていた。
しばらくして、ユウキは意を決したように、シンゴの目を見つめた。
「実は……好きな女の子がいるんです」
「……」
正直、シンゴは「そんなことか」と内心思った。しかし、ユウキの次の言葉を聞いて、その思いは一瞬にして覆った。
「その女の子、不倫してるんです」
シンゴは俄然、ユウキの話に興味が沸いた。