「昨日のプロフィールのことだけど」
シンゴはコーヒーを一口飲むと、アスカから頼まれていた仕事のことを切り出した。
「いつ頃、出来上がりそう?」
「もうほとんど出来ているから、明日には渡せると思うよ」
「ホントに?」
アスカは嬉しそうに言った。
「シンゴって仕事、早いのね」
「そんなことないよ。このくらい、普通だって」
アスカに褒められることに、シンゴは弱かった。アスカが自分のことを褒め、尚且つ喜んでくれているのだ。これほどまでに嬉しいことはないとさえ思った。
けれど、アスカは浮気をしている。そう思うと、複雑な気持ちになった。
アスカが優しいのだって、浮気の罪滅ぼしだと考えれば、手放しで喜ぶことも出来ない。けれど、「優しい」という事実だけを見れば、十分、幸せなことだとも思う。どこに焦点を当てるかで、幸せなのか不幸なのかが変わるのだ。
シンゴは出来るだけ、アスカの浮気について考えないようにした。せめて、一緒にいる時くらい、幸せを噛み締めたいと思ったのだ。
キッチンにいるアスカを見るだけで、シンゴはなんだか幸せな気分になった。自分の奥さんが自分の為にコーヒーを淹れてくれる。たったそれだけのことなのに、こんなに嬉しいと思うなんて、こんなに感謝をするなんて、思ってもみなかった。
きっと結婚していれば、そんなの当たり前だよ、と思われてしまうようなことでも、シンゴにとっては新鮮だった。どれだけ、自分たち夫婦がイレギュラーな環境下の中で、それでも愛想をお互い尽かさずにやって来ていたかを思い知った。
シンゴは今になって思う。自分たちは夫婦ではなかった。ただの同居人に過ぎなかったのだ、と。だからこそ、夫婦らしいちょっとした会話や行動にでさえも、思わず笑みがこぼれた。
「お待たせ」
アスカはキッチンから戻ってくると、コーヒーの入ったマグカップをシンゴに渡した。
「ありがとう」
シンゴはそれを笑顔で受け取る。
こんな毎日が続けばいいのに――そう、シンゴは思ったけれど、口には出せなかった。
翌朝、シンゴがリビングに行くと珍しくアスカがいた。
「おはよう」
アスカがソファに座ったまま、笑顔を向ける。
「おはよう」
寝ぼけたまま、シンゴはアスカに言うと、洗面所へと向かった。顔を洗い、ひげをそると、再び寝室に戻り、洋服へと着替える。
そして、もう一度、ソファに座るアスカに「おはよう」と言った。
「珍しいね、君がこんな時間に家にいるなんて」
「今日は朝から事務所に行っても、する仕事がないの。だから、家にいるのよ。コーヒーでも飲む?」
「ああ、もらおうかな」
こんなやりとりをしたのはいつ振りだろう、とシンゴは記憶を遡る。しかし、思い出せなかった。
家事はいつもシンゴがやっていたし、アスカからこういった類の優しさを向けられることは、ここ数年なかった。それだけ、アスカと関係性にヒビが入っていたということだ。
けれど、皮肉なことにアスカが浮気をしてから、シンゴとアスカの仲は急激に温かくなったのだ。そして、シンゴも今になって、夫婦の関係性について考えるようになっていた。
こんにちは☆
Hayamiです。
本日、「サークル○サークル」160話が配信されました。
9月も1週間だなんて、嘘だと言って……!
と思いながら、仕事をしています。
ちなみに現在、締め切りに追われまくりです。
8本から逃げ切れるのか!?
というのが目下の課題(笑)
1日書いてる文字数とか数えたくない!
と思えるくらい書いてます。
兎に角、締め切りをぶっちぎらないように
頑張ります!!
いつも女子の本棚の締切はギリギリでごめんなさい……。
来月からは少し余裕を持って、
お送りしたいなー!と思います。
……って、毎月思ってるんだけどね……。
うん、なかなかバタバタしてて厳しいのです。
皆さんも季節の変わり目なので、体調にはくれぐれもお気を付け下さいね!
≪お知らせ≫
個人ブログ「Hayami’s FaKe SToRy」にて、
お仕事依頼・作品感想用メールアドレスを設置しております☆
アドレスはhayami1109@gmail.comです。
作品の感想等送っていただけますと幸いです。
メールは直接私のところまで届きます☆
≪番外編のお知らせ≫
番外編「ドライフルーツ・シンキング~マンゴーな過去に~」はもう読んでいただけた
でしょうか?
作家のシンゴの視点で語られるアスカとのなれ初めや、
シンゴが考えていることを物書きとして描いている、というお話です。
全10回となっておりますので、ぜひこちらも併せてご覧下さい☆
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次回、161話もよろしくお願い致します☆
食事を終え、シンゴは書斎に戻ると、アスカから預かった書類に再度目を通した。
「大学3年生、20歳、母親と2人暮らし、か……」
シンゴはレナのプロフィールを見て、溜め息をついた。父親がいなければ、年上の男性を求めるのは仕方がないことだ。けれど、相手が既婚者なら、仕方ないでは済まされない。
「カフェでバイトしてて、常連だったターゲットと次第に惹かれあって、そのまま関係を持ってしまった……ってところかな」
シンゴは思いついたことを口にする。彼の仕事の最中の癖だった。声に出した方が頭の中が整理出来て、考えがまとまりやすいという理由で、この仕事を始めてからずっとこのスタイルを取っていた。
シンゴはパソコンに向かうと、設定を書き始める。基本的なアスカの情報はいじらず、アスカの基本情報に新たな項目を肉付けしていくような形で設定を作り上げていく方法を取ることにした。
その作業は普段の小説を書く手法とはいささか違ったが、これはこれで面白いとシンゴは感じていた。