小説「サークル○サークル」01-197. 「加速」

「悪いことは言わない。余計なことはしない方がいい」
「……」
「素人がどうこう出来る問題じゃないんだよ」
「……奥さんは別れさせ屋なんでしたっけ……」
「ああ、そうだよ。プロだって、不倫をやめさせるのは大変なんだ。素人の熱意なんかで、不倫は終わらない」
「……」
 シンゴの言っている通りだとユウキは思った。倫理に反しているとわかっていながらするのが不倫だ。それを始めることも続けることも、それ相応の覚悟があるはずだった。勿論、何となくという理由で不倫をしている人もいるだろうが、少なくとも彼女は何となくなんて理由で不倫をするようなタイプではない。それはユウキが一番よくわかっていた。きっと彼女にとって、不倫相手にしか埋められない何かがあったに違いない。
「……わかりました。尾行はやめます」
 ユウキは思い詰めた表情で言う。
「そうか、良かったよ」
 シンゴはほっと胸を撫で下ろした。
「だけど、尾行には連れて行って下さい」
「どうして?」
「どうしてもです」
 ユウキは一歩も引かない。その態度を見て、建前上行かないとは言ったけれど、彼女を尾行する気なんだな、とシンゴは確信していた。


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