小説「サークル○サークル」01-210. 「加速」

シンゴはタイピングをしようとして、手を止めた。とてもじゃないが、書く気分になれなかったのだ。アスカが帰ってくるまでに、気持ちを落ち着けようと、シンゴはコーヒーを淹れに席を立つ。こんな時、煙草が吸えたら、どんなにいいだろう、と思った。
そして、アスカが煙草をふかしている姿を思い浮かべた。彼女は煙草がよく似合う。シンゴはアスカが煙草を吸っている姿が好きだった。自分にはない格好良さというものをアスカは持っている。それを見ているのが好きだった。だけど、その姿は今、遠くに行こうとしている。なのに、自分は尾行以外、何もしようとはしていない。そう思うと、自分が一体アスカとの関係をどうしたいのかがよくわからなくなってくる。
傷つくのが嫌だというなら、見なかった振りをしていればいい。けれど、それさえも出来ずに尾行なんてマネをしているのだ。そのくせ、あと一歩のところで踏み込めない自分がいる。そんな自分をシンゴは持て余していた。


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