小説「サークル○サークル」01-242. 「加速」

冷静になろう、とアスカは深呼吸をした。それをレナは溜め息だと感じたのか、アスカの顔を見る為に顔を上げた。
「あなたも悩んでいるのね」
レナの視線に気が付いて、アスカは取り繕うように言った。
「はい……」
再び、レナは俯く。
ここから、自分が味方である、ということを上手くレナに認識させていかなければならない。アスカは気持ちを落ち着ける為に水を飲んだ。
「あなたはどうしたいの?」
「えっ……。どうしたい……ですか?」
「そう。これから、彼とどうなりたいと思ってる?」
困ったように視線を泳がせるレナにアスカは質問を重ねた。
レナはしばらく考えた後、ぽつりとつぶやくように「一緒にいたいです」と言った。
それがレナの本心なのだろう。体面を気にしているとしたら、「一緒にいたいけど、別れないといけない」となるはずだ。
「本当に彼のことが好きなのね」
「はい……。どうしようもないくらい」
素直にこんなことが言えるというのは、若い証拠だな、とアスカは思う。レナは自分より少し年下なだけだったが、二十代前半と二十代後半では明らかにモノの捉え方が違う。そして、考え方や発言だけでなく、身の振りも随分と変わったな、とアスカは思った。

小説「サークル○サークル」01-241. 「加速」

「彼のその一言があったから、私は笑顔でいられるし、毎日を楽しく過ごせるんだと思います」
レナの「毎日を楽しく過ごせる」という言葉にアスカはさすがに口を開いた。
「でも、あなたが楽しく過ごせる裏には、悲しんで悩んでいる人がいるかもしれないのよ。あなたとの浮気が奥さんにバレているとしたら、その奥さんは……」
「わかってます」
「……」
アスカが皆まで言い終えるより早く、レナはぴしゃりと言った。驚いてアスカは口を噤む。ピッツァが窯から取り出される音がふいに聞こえた。周りのどこか楽しげな雰囲気に気が付いて、自分たちがしている話の深刻さがなんだか現実のことではないような気がしてしまう。
「わかってるんです。奥さんにバレているとしたら、これほど、奥さんにとって辛いことはないだろうってことは」
レナは俯いたまま言う。
レナはレナで不安を抱え、悩んでいるのだ。アスカは感情のままに言ってしまったことを悔やむ。レナの気持ちを刺激しすぎてしまうのは、得策ではない。いかに自分が味方であるかを認識させなければならないのだ。レナを追及し、謝罪させる為にアスカは話しているのではない。レナをヒサシから引き離す為にアスカは話しているのだ。

【森野はにぃ】気が付けば、3月!


みなさん、こんちには☆

森野はにぃです。

気が付いたら、3月になってました(笑)

春はついついぼーっとしてしまいがちですが、

気を引き締めて、頑張って行きたいと思います☆

「ワンダー」の最終回が近付いてきているので、

ちょっと嬉しくもあり、ちょっと寂しくもあります。

お話の最後までしっかり書き切りたいと思います!

それでは、引き続き、「ワンダー」をお楽しみ下さいませ☆

小説「サークル○サークル」01-240. 「加速」

けれど、レナはどうしてそこまでヒサシを必要としているのだろうか。アスカは可能性を模索する。
そこで彼女が思いついたのは、金銭的な援助だった。けれど、金銭的な援助であれば、レナの容姿をもってすれば、ヒサシに固執することもないだろう、という気もする。
アスカは質問を重ねた。
「その気持ち、わかるわ……。でも、どうして、彼がいないと生きていけないと思うの?」
「それは……」
レナは言いづらそうに視線を泳がせる。訊かれたくないことだったのだろう。アスカは質問するのが早かったかもしれない、と思ったものの、口に出してしまった言葉を取り消すことは出来ない。レナが答えてくれるのを黙って待つしかなかった。
「私にもよくわからないんですけど、きっと……私に優しくしてくれるのは彼だけで、私を必要としてくれるのも彼だけだったからだと思います」
「必要とされる?」
「ええ、彼は私がいないと生きていけないと言ってくれたんです」
アスカは思わず頭を抱えたくなった。その衝動を我慢して、優しい眼差しを崩さないようにレナを見た。

小説「サークル○サークル」01-239. 「加速」

「奥さんがいる人を勝手に好きになって、付き合って、それが良くないことだってわかってて……。それで辛いなんて、自分勝手ですよね……」
「そんなことないわ」
アスカはレナがそこまで考えていることに驚きながら、レナを肯定する言葉を口にした。レナに自分がレナの味方である、と思わせることがアスカにとっては大切だった。そうでなければ、心を開いて、全てを話してもらえない。全て話してもらった上で、いかにレナを不倫から脱却させるかがアスカの腕の見せ所なのだ。
「自分勝手ですよ……。奥さんに申し訳なくて……」
「ねぇ、そこまで思うのに、どうして、不倫を続けるの?」
レナが本心からその言葉を口にしているのか、それとも、イイコを演じる為に口にしているのかを見極める為に、アスカは意地悪だな、と思いながらも問う。
「私にとって、彼は大切な人で……。彼がいなかったら、私は生きていけないから……」
レナは一言一言噛み締めるように言う。レナにとって、ヒサシが必要な人であるということは、事実のようだった。


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