小説「サークル○サークル」01-260. 「加速」

勿論、シンゴだって、傍から見れば幸せそうに見えていることに変わりはない。
仕事があり、住むところがあり、結婚もして奥さんとは大きなケンカもない。
けれど、それは表面上のことであって、シンゴの内面は不幸せだという気持ちでいっぱいなのだ。人の心の奥底まではわからないな、と自分のことと照らし合わせながら、シンゴは思う。
結婚して奥さんはいる。けれど、その奥さんが浮気しているかもしれない。それは決して幸せとは言い難い。
シンゴはいつものベンチに腰を下ろすと、芝生に視線を向けた。今日は芝生には誰もいない。
犬も飼い主も、無邪気に遊ぶ子どもの姿もそこにはなかった。
ただただ目の前に広がる芝生を見つめながら、シンゴはユウキが来るのを待った。
ケータイをパンツのポケットから取り出し、時間を確認する。
身支度をして、公園まで来るとなると、あと十五分くらいはかかりそうだな、と思いながら、シンゴはケータイをポケットにしまった。
袋の中には紙パックのコーヒーと菓子パンがある。
お腹は空いていたけれど、ユウキが来るまで待っていようと思った。きっとユウキが逆の立場なら、そうしてくれるだろう、と思ったからだ。それに一緒に食べる方が一人で食べるよりはいくらか美味しく感じられるだろうとも思った。


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