小説「サークル○サークル」01-269. 「加速」

シンゴは「おいしいね」と言いながら、朝食を食べていたけれど、考え事の所為でいまいち味はよくわからなかった。
「こういう時間って大切よね」
「えっ……?」
「二人で一緒に朝食をとる時間。穏やかで、一日の始まりに必要な時間だなって思って」
アスカは微笑む。シンゴも一拍遅れて、微笑んだ。アスカからそんな言葉が発せられるなどと思いもしなかったのだ。
「結婚してから、こういう時間、取って来なかったもんね」
「えぇ……。夫婦らしい夫婦ではなかったわよね……」
アスカはそう言って、少し遠い目をした。
シンゴは嫌な予感がした。
これではまるで別れ話の前振りのようではないか。こうやって、今までの自分たちを振り返り、もっとあの時こうしておけば良かったと口にするのだろう。
シンゴは速くなっていく鼓動から意識を反らせようと、コーヒーを喉に流し込んだ。冷めてしまい、生ぬるくなったコーヒーはシンゴの空しさを増幅させていく。
シンゴの目の前にいるアスカはトーストの最後の一口を今まさに食べようとしていた。


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