小説「サークル○サークル」01-268. 「加速」

「どうしたの? 難しい顔して。カップの底に何か書いてある?」
アスカは笑いながら、シンゴを見る。
「いや……」
シンゴは気の利いた言葉も思いつけないまま、アスカの言葉に曖昧な相槌を打った。
「シンゴは仕事は順調? 小説はだいぶ書き終わったの?」
「順調だけど、まだ半分くらいかな。あと二週間くらいで書き終わると思うけど」
「随分、早いのね」
「書き出しさえ決まってしまえば、大して苦労はしないんだよ」
「そういうものなのね。私には未知の世界だわ。でも……シンゴが今書いてる小説がすごく楽しみなの」
ろくに本も読まないアスカが自分の本を楽しみにしてくれている、という言葉を聞いて、シンゴは心底驚いた。けれど、シンゴは驚いたことを悟られないように表情を動かさないように努める。
「ありがとう。頑張るよ」
口ではそう言ったが、内心、ああ、やっぱり、とシンゴは溜め息をついていた。浮気をしている罪悪感から、きっとアスカはこんなことを口にしているのだ。


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