小説「サークル○サークル」01-311. 「加速」

 アスカは久々に朝から事務所でゆっくりと書類に目を通していた。
 いつものように煙草をふかし、脚は机の上に乗せ、手を伸ばせば届く位置には紅茶の入ったカップを置いていた。
 仕事とはいえ、毎朝、カフェに通うのは正直アスカにとっては疲れることだった。最初のうちは珍しいことに多少はウキウキしたが、そのウキウキもしばらくすれば、退屈に代わる。仕事なのだから、当たり前と言ってしまえば、それまでだったが、その疲労から解放されたことは大きい。
 アスカは書類を確認し終えると、くわえていた煙草の灰を灰皿に静かに落とした。そのまま、煙草をカップに持ち替えて、紅茶をゆっくりと飲んだ
 久しく、事務所の掃除をしていないな、と思って、床に視線を落とすと、床がキレイになっているのに気が付いた。他の所員が掃除してくれていたのだろう。アルバイトとして雇って数年が経つが、気の利く所員に育ったことを嬉しく思っていた。
 最初はどんなことでもいちいち言わなければ、することが出来なかった。これが噂のゆとり教育世代か、とも思ったが、一つずつ丁寧に教えれば、確実にこなしていく。
 数年経てば、何も言わなくたって、気が付いたことをしてくれるまでに育つのだ。ゆとり世代だと揶揄されることも多いし、人に寄るのだろうが、育て方次第だな、とアスカはキレイになった床を見ながら思った。


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