小説「サークル○サークル」01-174. 「加速」

 シンゴは内心、不安でしょうがなかった。アスカには自信のある素振りで話をしたが、裏をかいても成功する保証はない。実際にレナと会ったこともないのだから、その方法が効果的なのかも、実のところ定かではなかった。
 しかし、シンゴがあんな言い方をしてしまったのには、理由があった。一つはアスカに頼りになる男だと思ってもらいたいという虚栄心の所為だ。そして、もう一つは、作家としての意地だった。
 作家自身が作り出した架空の人物とは言え、小説では登場人物の人生を描くのだから、一般の人に比べれば、人間観察をしている時間も多いし、観察眼だって鋭いとシンゴは思っている。否、鋭くなければ困るのだ。それは仕事上の不便というよりは、プライドに起因する部分が大きい。
「後片付けは僕がやっておくよ」
 アスカの空になった皿を見て、シンゴは言った。
「ありがとう」
 アスカは笑顔で礼を言うと、まだ食べているシンゴの顔をまじまじと見た。
「どうかした?」
「なんだか、ちゃんとシンゴの顔を見ていなかった気がして」
「顔を合わせてるのに?」
「うん、そういうことじゃなくて。何でもないわ」
 アスカは苦笑して、コップに手を伸ばした。


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