小説「サークル○サークル」01-179. 「加速」
- 2012年10月26日
- 小説「サークル○サークル」
- サークル○サークル
「もうすぐ出来るから、顔でも洗ってきたら? なんだか眠そう」
アスカは鍋から目を離すと、シンゴの顔を見て言う。
「……うん、そうだね」
シンゴはソファから立ち上がると、アスカに言われた通り、洗面所へと向かった。
冷たい水で頬が濡れる。じゃぶじゃぶと顔を洗うと、フェイスタオルで水を拭った。冷たさから解放されて、なんだかほっとする。そのまま、シンゴは顔を上げた。
洗面台の鏡に映る自分を見て、思わず溜め息をつく。ちっとも冴えない顔をしていたからだ。
こんな冴えない自分とアスカが釣り合うわけなんてない、とシンゴは思う。けれど、一度はそんな自分でも好きになってもらえたのだから、たとえアスカの気持ちがターゲットに移ろっても、もう一度好きになってもらうことは出来るはずだ、とも思う。
しかし、一度こぼれた水が元に戻らないように、一度壊れた夫婦関係が元に戻ることはないようにも思えた。
堂々巡りの想いに、シンゴはどう向き合っていいのか、次第にわからなくなりつつあった。