シンゴは書斎に戻ると机に向かった。スリープしていたパソコンを立ち上げ、書き途中の小説を読み返す。見つけた誤字脱字を直しつつ、気になる言い回しも書き直していく。そうして、途中のところまでやってくると、シンゴは新しい文章を紡ぎ始めた。
パソコンの画面に向かいながら、アスカの話していたことが頭を過る。
アスカはレナをイイコだという。けれど、不倫をするのにイイコなんておかしいではないか。明らかに欲しがってはいけないとわかっているものを欲しがっているのだ。
そして、現在、その欲しがってはいけないとわかっているものを手にしている。手にしている――というよりは、奥さんとシェアしていると言った方が近いかもしれない。
どちらにせよ、不倫なんてする女の子がイイコという表現を用いられて、語られることにシンゴは違和感を覚えていた。彼女はイイコなんかではないのだ。
しかし、それと同時にシンゴはよく耳にする都合のいいフレーズを思い出してもいた。
シンゴは口を閉ざし、アスカから視線をそらす。イライラを落ち着かせようと、小さく深呼吸もした。そんなシンゴに気付かず、アスカは続ける。
「何にせよ、今回はここまででね。彼女とターゲットを別れさせるにはもう少し時間が必要だわ」
「でも、期限を考えたら、そんな悠長なことも言っていられないんじゃないの?」
「そうなのよね……。だけど……」
そう言って、アスカは黙り、何か考えているようだった。
「そう言えばさ」
シンゴは言うか言うまいか悩んだ挙句、口を開いた。
「ターゲットとはその後どうなの?」
シンゴは口にしてからしまった、と思った。
これじゃあ、まるで、アスカとターゲットの関係を知っているみたいではないか。シンゴはアスカが自分の言葉の意味を素直に受け取ってくれるようにと願った。
「その後どうって、最近は接触してないからわからないわね」
アスカは考え込むような素振りを見せながら言った。
どうやら、シンゴの心配は杞憂に終わったようだ。
「そっか。それじゃあ、俺はそろそろ仕事に戻るよ」
「そう。頑張ってね」
アスカはシンゴに笑顔を向けた。
「でも、理由って?」
「それがわからないから悩んでる」
「そこまでは聞き出せなかったの?」
「ええ。さすがに一度に全部情報を引き出すのは無理だし、危険だわ。段階を一つずつ踏まないとね」
アスカは溜め息混じりに答える。
「アスカのことは疑ってないの? 自分とターゲットを別れさせに来たんじゃないかって」
「多分、それはないと思う。そう思ってたら、自分のことペラペラ喋らないでしょ。不倫してるって自分から告白するメリットがないもの。あの子はきっと誰かに自分の苦しみをわかってもらいたかったんじゃないかなぁ」
「不倫をしてるのに、苦しみをわかってもらいたいなんて、随分勝手じゃない?」
シンゴはアスカとターゲットとの関係を思い出し、思わず感情的になる。
「そうねぇ。でも、人間なんてそんなものでしょ」
アスカはさらっと言ってのけた。
その一言にシンゴは押し黙る。
確かに勝手なのが人間だ。だけど、不倫をしているアスカにその言葉を言われるのは腹立たしかった。
みなさん、こんちには☆
森野はにぃです。
無事確定申告も終わり、ほっと一息ついていたら、
3月も残り半分切っておりました。
毎月あっという間ですね。
すぐに年を取ってしまうわけです(笑)
さて、最近はやたら突風が続いてますよね。
花粉もさることながら、ゴミも目によく入るし、
外に出る度、くしゃみも止まらないし……。
春を別の意味で満喫している気がします(笑)
「ワンダー」も最終回に向かっているので、
最後までしっかり書き切りたいと思います!
それでは、引き続き、「ワンダー」をお楽しみ下さいませ☆
「男の方が情にほだされちゃって、奥さん捨てて、子どもの出来た不倫相手と結婚しちゃうのよ」
アスカは溜め息混じりに答える。
「まぁ、わからなくもないかなぁ……」
シンゴの言葉にアスカはシンゴを睨みつけた。
「ほら、やっぱり」
「何怒ってるんだよ」
「男ってそういう生き物なのよね。弱く見える方に流されて行く」
「えっ?」
「そういう女は弱く見えるだけで、計算高くて強い女なのよ。浮気されていることがわかっても、直接旦那に言えない方がよっぽど弱い女よ。その区別もつかないんだから、ホント男ってバカ」
「……何か嫌な思い出でもあるの?」
「別にそういうわけじゃないけど」
アスカは否定したけれど、シンゴは怪しいと思った。けれど、今、これ以上訊けば、火に油を注ぐことになりかねない。シンゴはそれきり黙って、アスカが喋り出すのを待っていた。
「でも、あの子なら、そういうことはしないかなぁ……」
アスカはぽつりと呟いた。
「どうして、そう思うの?」
「いいコなのよね。基本的に。本来なら、不倫なんてしなさそうなタイプなのよ。人のモノを奪おうってタイプのコじゃないの」
「でも、不倫してるんだろう?」
「そうなのよ。だから、何か理由があるんじゃないかなぁって」
アスカは今日のレナとの会話を思い出していた。
何かが引っかかる。けれど、何が引っかかっているのか、アスカにはまだわからなかった。