小説「サークル○サークル」01-137. 「加速」

 アスカは事務所の机の上に足を上げ、書類に目を通していた。昨日、バーでの仕事が終わると、すぐに事務所に戻り、書類の整理をしていた。マキコからの依頼以外にもエミリーポエムには様々な依頼が舞い込んでくる。アスカ以外の従業員が担当している案件であっても、所長であるアスカが確認をしないわけにはいかない。たまたま、バーでの潜入と書類のチェックの日程がかぶってしまったのだ。家に連絡も入れず、事務所に直行したことで、シンゴが心配しているかもしれないな、と煙草に火を点けながらアスカは思った。
 電話でもしようかな……と思ったものの、仕事をしていたら邪魔はしたくない、と思い、結局、シンゴに電話はかけなかった。
 アスカは煙草の煙を天井に向かって吐き出しながら、昨日の夜の出来事を思い出す。
 バーで仕事をしていたら、いつものようにヒサシが女連れでやって来た。自分のことを誘っておいて、別の女と店に来るなんていい度胸をしているな、と思ったのも束の間、やはり動揺していたようで、アスカは普段しないようなミスをした。

小説「サークル○サークル」01-136. 「加速」

 夜が明けるまで、シンゴはリビングのソファでアスカを待ち続けた。けれど、やがては睡魔に負けて寝入ってしまった。目が覚めれば、アスカの姿があるかと思ったけれど、アスカはいなかった。家に帰宅した形跡もない。
 あの時、ホテルに入るのを止めていれば、とも思ったが、今更そんなことを思っても後の祭りだ。昨日の夜も思ったことだが、あの時、止めていたからと言って、アスカの気持ちがシンゴの元に戻ってくるわけではない。場合によっては、別れを告げられる可能性だってある。それならば、何も言わず、何もせず、ただ真っ直ぐに家に帰り、アスカが帰ってくるのを待った方がいい。そう結論づけたはずだった。けれど、シンゴの口からは溜め息が漏れる。
 ソファで眠っていた所為であちこちが痛い。寝返りもろくに打てない状況が肩こりと腰痛を増進させたような気がしていた。
 一つ大きな伸びをして、そのまま風呂場へと向かう。ぼんやりとしたままの頭で、シンゴは熱いシャワーを浴びた。憂鬱な朝の始まりだった。


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