小説「サークル○サークル」01-148. 「加速」

 心のどこかで、シンゴがどうにかしてくれることを待っているのだ。そのくせ、シンゴがどうにかしてくれることなど、ありはしないと言うこともアスカはよくわかっている。
 どうして、結婚してしまったのだろう。
 行きつく結論はいつもそこになる。
 でも、仕方がない。選んでしまったのは自分なのだ。今更、後悔したって遅い。責任は他の誰でもない、自分にある。
 ヒサシを待つこの時間にいつもアスカは自分の恋の相手を間違えたような気分になった。
 ふと顔を上げると、ドアが開き、入って来たのはヒサシだった。
 思わず、アスカの顔がほころぶ。けれど、続いて入って来た女を見て、アスカの笑みは消えた。
 茶色のボブヘアの良く似合う可愛い女だった。年の頃は二十代前半といったところだ。アスカとは数歳しか離れていないというのに、その若さは目を細めたくなるほど、眩しかった。
「いらっしゃいませ」
 いつものようにアスカは声をかける。ヒサシは躊躇うことなく、カウンターのいつもの席に座った。続いて、女も腰を下ろす。
「バーボンと、君は?」
「ジントニックで」
 アスカの顔を見ることなく、メニューに視線を落としたまま、女は言った。
 ヒサシの顔を盗み見る。その顔はいつものヒサシのそれとは違った。
 あの女がヒサシの本命――愛人だ。
 別れさせ屋の勘がアスカにそう言っていた。


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