小説「サークル○サークル」01-176. 「加速」

 同じ家にいるから、そこにいるのが当たり前で、そこに存在しているという事実しか確認していなかった、とアスカは言いたかったのでないか、あれは後悔の一言なのかもしれない、とシンゴは思った。
 アスカはターゲットと後戻りの出来ない関係になってしまった。けれど、最近、シンゴとちゃんと向き合うようになり、シンゴの良さを改めて確認し、今度はシンゴをないがしろにして、ターゲットに走ってしまったことを後悔し始めている――それが、シンゴが導き出した答えだった。
 シンゴはさっきよりも深い溜め息をつくと、作り上げた設定をざっと読み直し、誤字脱字がないことを確認する。プリンターの電源をオンにすると、プリントアウトし、再びその原稿に間違いがないか確認した。
 一つのテーマについて、ずっと考えていると、気持ちは荒んでくるし、いい方向になど何一つ考えられなくなってくる。やがて、ドツボにハマり、自分を苦しめていく。そして、そういった重たい空気は相手にだって、いつしか伝わってしまう。けれど、それ以上にシンゴはあることを心配していた。それは、あの日の夜見たことをアスカに言ってしまうのではないか、ということだった。

小説「サークル○サークル」01-175. 「加速」

 食事を終えた後、アスカは身支度をして、仕事へと出掛けた。帰りにそのままジムの入会申し込みをしてくるそうだ。
 シンゴはパソコンの前に座り、電源を入れ、立ち上げる。アスカが帰ってくるまでに、設定を作り直す為だ。
 いつも通り、文章を作成していく。
 大方、設定が出来上がったところで、ふとターゲットのことが過ぎった。
 今、こうして、自分が設定を作っている間にも、アスカとターゲットは会っているのだろうか。そう思うだけで、シンゴの胸の奥は予想をはるかに超える痛みを訴えた。シンゴはこんなことを考えることにも慣れたと思っていたし、ある程度の諦めもついているような気でいた。
 しかし、本当はそんなことはない。ただただアスカに自分だけを見ていてもらいたいのだ。
 ふいにアスカが食事中に言った「なんだか、ちゃんとシンゴの顔を見ていなかった気がして」という言葉を思い出していた。
 シンゴはアスカがどういう気持ちで言ったのかを考えて、溜め息をついた。

小説「サークル○サークル」01-174. 「加速」

 シンゴは内心、不安でしょうがなかった。アスカには自信のある素振りで話をしたが、裏をかいても成功する保証はない。実際にレナと会ったこともないのだから、その方法が効果的なのかも、実のところ定かではなかった。
 しかし、シンゴがあんな言い方をしてしまったのには、理由があった。一つはアスカに頼りになる男だと思ってもらいたいという虚栄心の所為だ。そして、もう一つは、作家としての意地だった。
 作家自身が作り出した架空の人物とは言え、小説では登場人物の人生を描くのだから、一般の人に比べれば、人間観察をしている時間も多いし、観察眼だって鋭いとシンゴは思っている。否、鋭くなければ困るのだ。それは仕事上の不便というよりは、プライドに起因する部分が大きい。
「後片付けは僕がやっておくよ」
 アスカの空になった皿を見て、シンゴは言った。
「ありがとう」
 アスカは笑顔で礼を言うと、まだ食べているシンゴの顔をまじまじと見た。
「どうかした?」
「なんだか、ちゃんとシンゴの顔を見ていなかった気がして」
「顔を合わせてるのに?」
「うん、そういうことじゃなくて。何でもないわ」
 アスカは苦笑して、コップに手を伸ばした。

小説「サークル○サークル」01-173. 「加速」

「それじゃあ、決まりだね。取り敢えず、ジムの入会申し込みをしなくちゃいけない」
「そうね、今日の夕方行ってくるわ」
「バーの仕事は辞めてしまったわけだから、設定上、別の仕事に就く必要がある」
「でも、私が演じられて、バレそうもない仕事なんて、別れさせ屋くらいしか思いつかないわ」
 アスカは不安げな表情を浮かべ、シンゴを見た。
「それなら、問題ないよ。別れさせ屋だって答えればいい」
「ターゲットの不倫相手よ!? そんなこと出来るわけないじゃない」
「自分とその不倫相手をターゲットにしている別れさせ屋が、自分から別れさせ屋だって明かすなんてことはないだろう? 裏をかくんだよ。きっと相手は油断する」
「そんな……リスクが高すぎるわ」
「リスクは高いかもしれない。でも、レナのプロフィールを見る限り、その方が効果的だと僕は思う」
 自信に満ちた表情でシンゴは言う。アスカはそんなリスクの高いことは出来ないと思いながらも、シンゴがそこまで言うのなら、大丈夫なのではないかと思っていた。
「……わかったわ。シンゴがそこまで言うなら、それで行きましょう。詳しい設定は帰宅後に見せて」
 アスカはシンゴの瞳をじっと見つめてそう言うと、パスタを再びフォークに巻き始めた。パスタはもうすっかり冷めてしまっていた。

【森野はにぃ】気温がわかりません……!


みなさん、こんにちは。

森野はにぃです。

本日、「ワンダー」170が配信されました。

気が付けば、外気は冷たく、

半袖でうっかり出て驚く、という日常を送っております。

いい加減、長袖着る習慣つけなくちゃ……。

家に引きこもってばかりいると、

季節に鈍感になりやすいなぁ、と思ってしまいます。

最高気温とか言われもピンとこないし、

昨日より肌寒いです、と言われも、よくわからないのです。

なんだか、ちょっぴり、浦島太郎気分。

今年も残り2ヶ月半となりましたし、楽しい冬休みをゲットする為、

もりもり頑張りたいと思います☆

それでは、引き続き、「ワンダー」をお楽しみ下さいませ☆


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