「髪型も違ったし、雰囲気も違って、昔は愛人っぽいっていうのかな……。今の妻ですっていう風格とは全然違ってて。あの頃とは、結婚して苗字が変わってるから、ピンと来なかったのよ」
「なるほどね……。でも、過去に何があったって、おかしくはないんじゃない?」
シンゴは自分の少し後ろめたい過去を思いながら言う。
「そうなんだけど……。今回の妊娠の嘘とあの写真と……。なんか腑に落ちないっていうか……」
「不倫をする女だから、信用ならない、と思ったとか?」
「それもあると思う。ただ見た目は妊婦っぽいっていうか……。あのタイプなら、ヒールは欠かさないはずなのに、ヒールじゃなくてフラットシューズを履いてたし……」
「芸が細かいな」
「うん、まさしく、そんな感じの印象を受けたわ」
「依頼者とターゲットは現在、男女の関係にはないんだったよね」
「うん。そうなのよ。だから、妊娠するなんて有り得ないわ」
「だとしたら、考えられるのは……」
そう言って、シンゴは思考を巡らせた。
「依頼者が妊娠しているっていう嘘をついてるって話は前にしたでしょう?」
「ああ」
「それでね、やっぱり、依頼者は妊娠してない、とは言っては来なくて」
「そりゃあ、妊娠してないのをしてるって言ってて、やっぱり、嘘でした、とは言いづらいよね」
「うん……そうだとは思うの。だけど、今日、もう一つ、不自然っていうかなんていうか……奇妙なことがあったのよ」
「奇妙?」
シンゴは鸚鵡返しに問う。
「そう。奇妙、が一番しっくり来る気がする」
アスカはそう言って、ソファに座り直した。
「前に担当した案件で使った写真に依頼者が写っていたの」
「前の案件では、彼女がターゲットだったってこと?」
「そう……。随分、昔の案件で、まだシンゴにも出会う前だったと思う。本当に偶然だったのよ。写真が床に落ちて……それで見つけたの」
シンゴはアスカの話を真剣な眼差しで聞いている。
些細なことかもしれなかったが、アスカはシンゴのそんな態度が嬉しかった。
食事を終え、シンゴは後片付けをしながら、ソファに座ってテレビを観ているアスカに視線を向ける。
一見、テレビを観ているようには見えるけれど、ただテレビの画面を眺めているだけなのだということにシンゴは気が付き、やっぱり、様子がおかしいな……とシンゴは思う。
洗い終わった食器の泡を水で流しながら、シンゴはアスカのゲンキがない理由の仮定を始める。仕事が上手くいっていない、ターゲットと何かあった……。でも、シンゴの前でもあからさまに落ち込んでいるところを見ると、仕事で何かしらのアクシデントがあったのだろう、という結論に達した。
全ての食器を洗い終えると、シンゴはホットミルクを持って、アスカの隣に腰をかけた。
「はい、どうぞ」
アスカの前にコースターを敷き、シンゴはホットミルクを置く。
「ありがとう……」
少し驚いたようにアスカはシンゴを見た。
シンゴは隣でホットミルクを飲みながら、アスカと一緒にテレビの画面に目を向ける。
CMに入るとほぼ同時にシンゴは口を開いた。
「何かあった?」
シンゴの言葉にアスカはドキリとして、シンゴを見た。
「どうして……?」
「見てればわかるよ。夫婦なんだから」
そう言って、微笑むシンゴにアスカはぽつりぽつりと話し始めた。
こんばんは☆
タイトルの通り、本日より、「ワンダー」前後編無料キャンペーンが
18・19・20日の3日間行われています☆
本日、とうとう最終日!
まだ読んでないよ! という方は無料のこの時にぜひお手に取って下さいね。
「ワンダー」は「女子の本棚」で連載させていただいておりましたプラトニックなBL小説です。
BLはエロがあるのが当たり前!という風潮はありますが、敢えてのエロなしです。
主人公が男を好きになっていくことへの葛藤や相手が自分をどう思っているか悩む姿を中心に描いています。
kindleでのお取扱いとなりますが、
端末がなくても、kindleアプリを入れていただければ読めるそうなので、
ぜひこの機会にお手に取っていただけますと幸いです。
詳細はこちらから↓
「ワンダー前編」
「ワンダー後編」
食卓のテーブルに着くと、焼きたての肉のいい香りが鼻先をかすめた。
「いただきます!」と二人は声を合わせて言うと、肉にナイフを入れる。
「今日ははちみつでマリネにしてみたんだよ」
「へぇ……楽しみ!」
アスカは嬉しそうに笑うと、肉を口に運んだ。
肉汁が溢れ、少し遅れて甘めのソースの味が口の中に広がっていく。
「美味しい!」
「ホント!? 良かったぁ。初めてチャレンジするから、少し心配だったんだ」
「大丈夫よ。シンゴはほとんど料理失敗しないじゃない」
「そうだけど、やっぱり、新しい料理にチャレンジする時はそれなりに不安はあるよ」
「意外だなぁ」
アスカは一緒に用意されているパンプキンスープに手を伸ばす。
「あ! これ、冷静スープなんだね」
「うん、昨日のパンプキンのクリームソースパスタのソースが余ってたからね。そこに豆乳を足して、作ったんだ」
「ホント、シンゴって料理上手よねぇ」
アスカは感心したように言う。
「そう言ってもらえて、何よりだよ」
シンゴは笑顔で言いながらも、アスカの様子がいつもと違うことに気が付いていた。