こんにちは☆
タイトルの通り、本日より、「ワンダー」前後編無料キャンペーンが
18・19・20日の3日間行われます☆
「ワンダー」は「女子の本棚」で連載させていただいておりましたプラトニックなBL小説です。
BLはエロがあるのが当たり前!という風潮はありますが、敢えてのエロなしです。
主人公が男を好きになっていくことへの葛藤や相手が自分をどう思っているか悩む姿を中心に描いています。
kindleでのお取扱いとなりますが、
端末がなくても、kindleアプリを入れていただければ読めるそうなので、
ぜひこの機会にお手に取っていただけますと幸いです。
詳細はこちらから↓
「ワンダー前編」
「ワンダー後編」
アスカが帰宅すると、夕飯のいい匂いが漂っていた。
玄関の廊下からリビングに続くドアを開けると、肉を焼いているシンゴの姿があった。
「おかえり。そろそろ、帰ってくる頃だと思ったんだ」
シンゴは真剣な顔で肉をトングで引っ繰り返しながら言った。
「ただいま。はい、頼まれてたアイスクリーム」
「ありがとう。今日、コンビニに行ったら、売ってなくってさ」
「もう在庫限りだったみたい」
「期間限定商品だからね」
「あるだけ買って来たから」
「あ、すごい量。ありがとう」
シンゴはちらっと視線を肉から食卓テーブルに置かれたアイスの入った袋にやると、嬉しそうに口の端をほころばせた。
アスカは手洗いとうがいの為に洗面所へ行くと、丁寧に手洗いとうがいをした。そして、鏡の前で軽く髪を整えた。
少し疲れた自分の顔に溜め息がこぼれそうになったけれど、敢えてアスカは鏡に向かって微笑んでみる。
ほんの少しだけ、元気になれたような気がした。アスカはシンゴの待つリビングへと向かった。
マキコを送りだし、アスカはどかっと椅子に腰をかけた。
煙草の箱を振り、煙草を取り出す。最後の一本だったので、マキコはくしゃりと箱を潰した。
手近にあったライターで煙草に火をつけると、煙をくゆらす。
嫌なことがあった時、疲れた時は、煙草が最高に美味しい。今日はそのどちらもだったから、二倍美味しく感じるような気がしていた。
アスカは進捗状況を報告しながら、くまなく、マキコを観察していた。
けれど、結局、マキコに不審な点はなかった。
お腹が大きくなっているのかどうかは、ワンピース姿のマキコからはわからなかったけれど、ヒールは履いていなかった。
マキコの雰囲気からすると、妊娠する前まではきっとヒールを履いていただろう、というのは安易に想像が出来た。あれは、妊娠の為に大事を取っているのだろう。
様々な状況を見ても、やはり妊娠しているのではないか、とアスカは思った。でも、妊娠している振りを徹底的にしているのかもしれない、とも思った。
一体、どちらが真実なのだろう? とアスカは短くなった煙草を灰皿に押し付けながら、溜め息をついた。
「ご無沙汰しています」
マキコは丁寧に巻かれた巻き髪を揺らしながら、お辞儀をした。
「どうぞ、こちらへ」
アスカに促されるまま、マキコはソファに腰をかける。
アスカはお湯を沸かし、ノンカフェインの紅茶を淹れた。
「いつもすみません」
マキコは恐縮しながら、アスカから出された紅茶に口をつける。
「わざわざ、ご足労いただいてありがとうございます。今回のご依頼の進捗のご報告なんですが……」
「どんな感じでしょう? 相手の女性とは別れてくれそうでしょうか?」
「今、女性の方と接触しているところです。あと少しで別れさせることが出来ると思います」
「そうですか。じゃあ、最初の依頼通りの日程で別れさせていただけるんですね」
「そうなりますね」
マキコはそっと胸を撫で下ろす。
他にも女がいることはわかっていたが、まだここで言うわけにはいかなかった。ヒサシとの交渉が終わっていないからだ。
「お身体の方はいかがですか?」
アスカは差し支えない程度にマキコに尋ねる。
「お陰様で、順調ですよ」
「それは良かったです。それから……」
アスカは一通り、今後必要となる手続きについての説明を始めた。
けれど、アスカの気持ちはここにはなかった。あの写真のことがずっと脳裏を過っていたのだ。
一体、どういうことなのだろう……?
疑問だけがくるくると頭の中を回り続けていた。
「どういうこと?」
アスカは写真をまじまじと見る。
その写真は別の案件で対象者を写したものだった。
ターゲットである男性の少し後ろにマキコが写っている。
「マキコは別の案件で不倫相手だったってこと……?」
混乱する頭の中をアスカは整理しようとする。
「この写真の書類は……」
アスカは写真の案件の書類を探そうと、山積みになっている書類に手を伸ばした。
その瞬間、ばさばさと書類の山が崩れ、紙が散乱する。
「最低……」
アスカはしゃがみこみ、書類を拾い始める。
時間が気になって、時計に目を遣れば、マキコが来る五分前だった。
取り敢えず、散らかった書類を拾い集め、何事もなかったように再び机の上に書類を置いた。
それと同時に来客を知らせるインターホンが鳴った。
「どうぞ」
ドアを開けて、アスカはマキコを出迎える。
そのお腹は以前会った時よりも、幾分か大きくなっているように見えた。これでもまだヒサシが気が付いてないのだとしたら、きちんと妻のことを見ていないのか、よっぽどアホだ、とアスカは思った。