小説「サークル○サークル」01-350. 「加速」

翌日、アスカはマキコに電話をした。依頼の進捗を報告したい、と言ったら、マキコは来ると言った。
アスカは電話を切ってからずっとマキコを待っている。
マキコが来ることが気になって、他の仕事が全く手に付かない。
煙草の吸殻だけが、灰皿に溜まっていった。
アスカは時間の無駄遣いだと思い、立ち上がると掃除を始めた。
普段、アルバイトたちが掃除をしているとは言え、アスカの机は手つかずだ。書類が山のように積まれ、今にも雪崩を起こしてしまいそうだった。
書類を一枚一枚確認しながら、シュレッダーにかけるものと、ファイリングするものへと分けていく。
どうして、こんな風になるまで放っておいたのだろうと、自分の怠惰さに溜め息をつきながら、アスカは書類を次々仕分けていった。
その時だった。
はらはらと一枚の写真が床に舞い落ちる。
アスカは写真を拾い上げると、確認する為に写真を見据えた。
「え? これって……」
アスカの持っている写真には、なぜか依頼者のマキコが写っていた。

小説「サークル○サークル」01-349. 「加速」

シンゴはもう寝るというアスカと別れると、書斎に戻った。
原稿は書き終わっている。読み終わった後、清々しい気持ちになれるようにハッピーエンドにした。あとは推敲を終えれば、原稿を送れる。
シンゴは文字の並んだ画面を見ながら、首を傾げた。
小説はフィクションだ。けれど、現実の方が随分と衝撃的なことが多い。
今回だってそうだ。小説のモチーフはアスカのことだけれど、結末は至って明快だ。しかし、アスカの前に立ちふさがった事実は複雑だった。
それにしても……とシンゴは思う。
どうして、依頼者はアスカにあんな嘘をついたのだろうか?
シンゴにはどうしてもその理由が思いつかなかった。
早く解決してほしい、というのは、依頼者の心情としては理解出来る。けれど、それだけの理由にしては、いささか弱い気がするのだ。
もしかして……とシンゴは思う。
でも、そんなことはあるわけない、とも同時に思った。
シンゴは文字の並んだ画面を見つめたまま、一つの可能性について、思考を巡らせ始めていた。

小説「サークル○サークル」01-348. 「加速」

「……それはひどい」
「でしょう? 私も正直、驚いたわ」
「でも、依頼者も嘘をついてるんだろう?」
「そうなのよ。依頼者は妊娠してるって私に言ってたの。でも、ターゲットの話によると、関係はないから、子どもが出来るはずはない、って」
アスカは自分の口から発せられる言葉を一つ一つ確認するように、ゆっくりと喋った。
「妊娠してないのに、妊娠してるって言ってた……?」
「ね、理解しがたいでしょう?」
「何か理由がない限り、そんな嘘を第三者の君につく必要はないよね」
「そうなの。ターゲットにじゃなく、私になぜそんなことを言ったのか……。子どもが産まれる前に浮気をやめさせたいって言ってはいたけど……」
「てことは、早く別れさせてもらう為に、君に嘘を?」
「……そういうことだと思うんだけど、なんだか腑に落ちなくて……」
「僕も話を聞いていて、納得は出来ないな……。でも、一体、なんの為に……?」
「全く見当がつかないわ。一度、依頼者には色々と報告もしなきゃいけないし、会わなきゃいけないんだけど、なんて切り出そうかと思って……」
アスカは困惑した表情のまま、ぬるくなったホットミルクを喉に流し込んだ。

【森野はにぃ】「ワンダー」書籍化しました!


ご無沙汰してます。森野はにぃです。

なんと半年ぶりのブログ!!

今回はお知らせがあります。

「女子の本棚」で連載させていただいておりました「ワンダー」が前後編となって、

kindleで発売されました!!

実は連載後、書き直したり、いらない部分を削除したり……。

色々と準備をしておりました。

BL作品の中では珍しく、エロなし作品ですが、

プラトニックな恋の中にある葛藤などを楽しんでいただけますと幸いです。

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「ワンダー前編」

「ワンダー後編」

小説「サークル○サークル」01-347. 「加速」

「バレたの」
アスカはホットミルクを半分くらい飲んだところで、口を開いた。
意外なアスカの言葉にシンゴは一瞬面食らう。
シンゴが想像していなかった返答だった。
「それはターゲットにってこと?」
「そう。ターゲットにバレたけど、依頼してきたのはレナの幼馴染の男だと思ってるみたい。だから、依頼者が誰かはバレてないわ」
「だったら、どうにでもなるんじゃないの?」
「そうなんだけど……」
アスカはそこで言葉を区切り、考え込む。
シンゴには一体アスカがなぜそこまで悩んでいるのかがわからなかった。アスカが思うより、随分と事態は単純なように思えたからだ。
「あのね……。依頼者が嘘をついてるみたいで……」
「えっ? 浮気はしてるんでしょう?」
「ええ。でも、依頼者が思ってるより、浮気の実態はひどいものだったわ。依頼者が把握してるより、ターゲットの浮気相手は多いし……」
「……多いってどのくらい?」
「レナ以外に三人もいて、尚且つ、レナはその中でも一番じゃないわ」
アスカの言葉にシンゴは息をのんだ。


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