ヒサシの言葉に浮かれている自分がいる。けれど、これは仕事なのだと冷静なもう一人の自分が諭す。揺れ動く気持ちの中でアスカはヒサシに笑顔を向けた。どうとでも取れる笑顔だ。嬉しいとも、ふざけたことを言わないでとも。アスカはヒサシの前から去ろうと、踵を返した。ふいに強い力で腕を引っ張られて、彼女は振り向く。ヒサシの大きな手がアスカの左腕を掴んでいた。
「何か?」
アスカは冷静を装いながら言う。それ以上の言葉はとてもじゃないが、思いつけなかった。
「離したくないと言ったら怒る?」
「それは……」
ヒサシの目はいつになく真剣で、アスカは答えに詰まった。目を伏せ、適当な言葉を探すけれど、気の利いたセリフを思いつけない。アスカが迷っている間にも、ヒサシの手に込める力が強くなる。「離して下さい」と言おうとして、顔を上げた瞬間、アスカは自分の身に起きたことを一瞬理解出来なかった。
ヒサシの唇が喋ろうとしたアスカの唇を塞いでいたのだ。あまりの出来事にアスカはされるがまま、その場に立ちつくしていた。反論しようにも唇を塞がれていては、声を発することさえ出来ない。やっとの思いで、アスカはヒサシの肩に手を当て押しのけようとした。
本日、短編『サシアイ』の終了日になります。
短い間でしたが、拙稿にお付き合いいただきましてありがとうございました!
例えそれが、怒りでも、不満でも、皆さんの心に何かが届いていればいいなー等と図々しくも願ってやみません。
追い出されなければ、次回作でまたお会いできる予定であります。
次回作では、キャラクターをもっと押し出して、娯楽作を目指してみようと思っています。
よろしければ覗いてやっておくんなましー。
重ねまして、お付き合いありがとうございました!
みなさん、こんにちは。
森野はにぃです。
本日、「ワンダー」82話が配信されました。
相変わらず、引きこもってお仕事をしているので、
気が付けば桜は満開。
そして、次に外に出る時には散っているんでしょうね……。
今年もお花見しなかったなー。
そう言えば、最後にお花見したのはいつだったのか思い出せません(笑)
皆さんはお花見出来ましたでしょうか?
静かに桜を愛でる時間というのは、良いですよね。
屋台が出たりもしているので、お祭りみたいでワクワクしたのを思い出します(笑)
4月も残り2週間。
4月下旬からはなんとゴールデンウイークが!!
この仕事を始めてから、ゴールデンウイークとは無縁の生活をしていましたが、
今年はちょっぴりゴールデンウイークを味わえるかも?
と期待しつつ、もりもり原稿を書いていきたいと思います。
4月が終わると、今年の3分の1が終わったことになります。
なんとも不思議な感じです。
気が付けば、夏になってるんだろうなー(笑)
それでは、引き続き、「ワンダー」を楽しんで下さいね☆
実は、ひとつだけ、確実に相手を凌駕し得る方法が見つかっている。恐らくは槇村もそれにたどり着いたはずのものだ。
(あとは、先に実行できれば……)
そう、実行さえできればすれば勝利は確実だった。
しかし、痛飲した大量の酒も今度ばかりは頼りにならず、結局、俺は躊躇してしまう。
この時点で、少なくとも俺の勝利は無くなった━。
どうしてこうなった? 何故、止められなかった? 槇村のマンションへの道すがら、答えが出るはずも無い自問を繰り返した。
水は自然が生み出したもの、酒は神が分け与えたものという━槇村の知識と美貌は、神様の招聘に適うものだったのかもしれない。
これから目の当たりにするであろうそれを夢想し、俺は神々しさに胸打たれた。同格を望むなど、土台無理な存在だったのだ。
俺の来訪を予測していたように、槇村のマンションのドアには鍵が掛かっていなかった。俺も迷うことなくリビングへと向かう。
すべてを確認するため、照明を点けた。
「クロサイの、間に合ったのか……」
果たして等身大の酒瓶の中、勝利を確信した微笑みを死相に浮かべ、全裸の槇村が浸かっていた。
動物愛護法と窃盗、あるいは廃棄物の処理関係か━様々な法に抵触しながら、俺と槇村の狂気は加速していった。
「“兎耳酒”というのを入手したよ!」
「今日は“鶏冠酒”というのが見つかったぜ!」
「あははは、“雀舌酒”━これはなかなか洒落てるね!」
「こっちは“羊骨酒”だ! うははは、ウールマークでも申請するか!」
「“猿尻酒”っていうのを見つけた! もちろん赤色さ!」
「ひひひひ、“豚足酒”だぜ! これは料理酒でアリだろ!」
俺は初めて精神(こころ)を麻痺させるために飲む酒を知った。
毎日、浴びる様に酒を飲み、大脳辺縁系が望むに任せて、時に大泣きし、時にはゲラゲラ笑いながら“作業”を進めた。常に発狂の予感と隣り合わせの毎日だった。
しかし、正気と狂気の縁を走る俺達のチキンレースは、槇村の“馬蹄酒”の提出をもって手詰まりになる。
これを超えるには、ゾウ酒? カバ酒? そんなもの捕まるわけがない。
いや、それ以前に、巨体を浸す酒瓶が存在しないのではないか。
既に正常な判断力を失いつつあるのか━俺は用意し得るものなのかを、あくまで真面目に河童橋の容器専門店で訊ねてみた。
店主は呆れながらも、その問い合わせが本日二度目である事を教えてくれた。獲物はクロサイ━確認するまでもない。槇村も同じ所に行きついているのだ。
俺は焦った。アルコールで蕩けた脳みそを駆使し、懸命に打開策を探った。