はじめまして、阿部羽と申します。
お誘いいただいてから随分と経ってしまいましたが、やっと作品をお見せする事が出来る様になりました! こいつぁ春から縁起がいいです!
実は携帯の小説は今回が初めてとなります。
皆さまにおかれましては、読みにくい、分かりにくいなど、色々とご不満もある事と思いますが、どうか生暖かい目で見守ってやってくださいませ。
ちなみに、今回の短編、あまり社会的によろしくない内容です。
特に生きとし生けるものは皆平等といった理念をお持ちの方は……、怒んないでくださいね。
では、今後ともよろしくお願い申し上げますー。
「結局、日本酒は米が一番重要だよな」
そう言って俺は徳利を差し出した。
対面に座る友人、槇村卓(まきむらたく)の杯に酒を注ぐ。
いずれも備前焼、味わいある桟切模様の逸品━槇村に舐められたくない一心で、俺はこれらの酒器を買い揃えた。
「うまい酒を飲むための手間は惜しめないからな。
もちろん、農水省の作況指数を鵜呑みになんかしないぜ?
ここぞと思う産地には自分の足で出来不出来を確認に行く━で、近郊の蔵元で買い付ける。これで十中八九はうまい酒にありつけるな」
「ふ~ん、米ねぇ……」
俺の主張をニヤニヤ笑いながら聞いていた槇村は、ぐいっと酒をあおると熱い息を吐いた。
「まあ、間違っちゃいないとは思うけどね。
僕は絶対に水が先だと思うな。味噌や醤油と一緒だよ━まずは、清水ありき、さ」
明らかに俺より飲んでいるはずなのに、槇村の弁舌は乱れない。
外科医がパニックに陥った助手を窘める様に、穏やかに、しかして理路整然と切り返してくる。
「老舗の蔵元はきれいな水源に集まっているだろう?
そして動かない、というか、動けない。米の不作が続く事もあったろうさ。でも、不動のままだった。水が最も重要とされてきた証拠だよ」
槇村は更に杯を重ねた。
結婚が上手くいってなければ、浮気くらいしたくなる。意識しているのか、無意識なのか、その違いはあるにせよ、浮気をしたいと思うことに男女間の差異はほとんどないのだろう。新しい刺激が欲しい、パートナーより素敵な相手がいて心惹かれるなど、浮気なんて、恋に落ちるのと同じくらい単純で、星の数ほど理由があるに違いない。
けれど、結婚しているのに浮気に走る、となってくると、恋に落ちるのと話は別だ。理性はどこへ行ったのか、という問題がある。しかし、そもそも色恋に理性を求めること自体がナンセンスな気もしていた。そして、シンゴは考える。アスカの浮気を肯定したくはない。浮気をしそうな状況なら今すぐにでも止めたい。だけど、今ここでそんなことを口にしても、火に油を注ぐようなものかもしれないとも思っていた。反対されれば、余計に浮気をしたくなるかもしれない。アスカは本当に自分の気持ちに気が付いていないのに、気付くきっかけを自分が与えてしまうかもしれない。だったら――自分が変われば良いのだ、とシンゴは思った。もう一度、自分がアスカを振り向かせればいい。離れてしまった気持ちをまた自分に向ければいいんだと思った。シンゴにはそれが何よりも安全で手っ取り早いように思えた。幸いにも最近会話が成立するようになってきている。今日だって、あんなにたくさん話せたではないか。きっと険悪な一時期よりも今の方が状況は幾分もマシになっている。そう思っていた。