「サシアイ」3話
俺と槇村は、毎週末、この酒の試飲会を開いている。
自他共に認める酒好きの俺たちは、大学一年の歓迎コンパで知り合い、自然と意気投合━事あるごとに自慢の酒を持ち寄るようになっていった。
ただ、神聖なキャンパスにアルコールを持ち込むのは如何なものかと、いっそ定期的な酒宴を催す事にしたものだ。
今日はたまたま日本酒だったが、洋酒、果実酒、蒸留酒━アルコールが入っていれば何でもござれの暴飲会である。
大学生の分際で酒道楽とは我ながらどうかとは思うが、酒屋の息子だ。温情願いたい。
ちなみに槇村の実家も醸造業で、国内屈指の作り酒屋である。いわゆる御用聞きのうちとは天地の差だ。この点でも、槇村は俺のプライドを傷つける存在だった。
「来週はお前の番だな━何を飲む?」
「ちょっと珍しい酒が手に入ってさ。まあ、任せてよ」
自信ありげな槇村の表情と、生来の負けず嫌いが俺の闘志に火を点ける。
「へぇ、ちょうど俺も面白い酒を見つけたところだ。あれはそう簡単に手に入る代物じゃないな」
別にそんな酒は用意していない。
口は災いの元とはこの事だ━結果、自慢の酒を用意するため、俺は翌日から全国を奔走する破目に陥った。
「じゃあ、お互いに持ち寄る感じでいく?」
「いいとも、楽しみだな」
次の試飲会の時間を約束して、俺達は別れた。