「サシアイ」3話

 俺と槇村は、毎週末、この酒の試飲会を開いている。
自他共に認める酒好きの俺たちは、大学一年の歓迎コンパで知り合い、自然と意気投合━事あるごとに自慢の酒を持ち寄るようになっていった。
 ただ、神聖なキャンパスにアルコールを持ち込むのは如何なものかと、いっそ定期的な酒宴を催す事にしたものだ。
 今日はたまたま日本酒だったが、洋酒、果実酒、蒸留酒━アルコールが入っていれば何でもござれの暴飲会である。
 大学生の分際で酒道楽とは我ながらどうかとは思うが、酒屋の息子だ。温情願いたい。
 ちなみに槇村の実家も醸造業で、国内屈指の作り酒屋である。いわゆる御用聞きのうちとは天地の差だ。この点でも、槇村は俺のプライドを傷つける存在だった。
「来週はお前の番だな━何を飲む?」
「ちょっと珍しい酒が手に入ってさ。まあ、任せてよ」
 自信ありげな槇村の表情と、生来の負けず嫌いが俺の闘志に火を点ける。
「へぇ、ちょうど俺も面白い酒を見つけたところだ。あれはそう簡単に手に入る代物じゃないな」
 別にそんな酒は用意していない。
 口は災いの元とはこの事だ━結果、自慢の酒を用意するため、俺は翌日から全国を奔走する破目に陥った。
「じゃあ、お互いに持ち寄る感じでいく?」
「いいとも、楽しみだな」
 次の試飲会の時間を約束して、俺達は別れた。

小説「サークル○サークル」01-76. 「動揺」

 アスカはシャワーを浴びながら、仕事のことを考えていた。アスカが請け負っている仕事以外にも事務所としていくつか仕事をしている。アルバイトたちもよく働いてくれていて、特に心配するような状況でもなかった。一番の問題はアスカが抱えている案件だ。マキコからは連絡はまだない。たった二、三日では状況は変わらないだろう。気長に待つしかないけれど、やはりイライラや不安は次第に募っていく。そんな時、シンゴが温かい食事を作って待っていてくれるというのは、幾分心が和んだ。アスカの話を聞いてくれて、尚且つ的確なアドバイスもくれる。作家という仕事柄か、シンゴの発想はいつだってアスカとは違っていたし、良い刺激にもなった。けれど、シンゴにはどうしても男を感じなくなっている。極端な話をすれば、セックスをしたいと思わない、ということだ。シャワーを浴びながら、アスカは自分の身体に視線を落とす。いつから誰も自分の身体に触れなくなったのだろうか。お湯が滑り落ちていく肌は今もまだきちんと水を弾き、肌理の細やかさは健在だ。なんだかそんな自分の身体を見ていると、可哀想に思えてきた。きちんと女として機能するのに、使われていないということが情けなくもあり、勿体なく思えてしまう。そんなことを思ってしまう自分は贅沢なのだろうか。アスカはシャワーを止めて、溜め息をついた。


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