「サシアイ」15話
動物愛護法と窃盗、あるいは廃棄物の処理関係か━様々な法に抵触しながら、俺と槇村の狂気は加速していった。
「“兎耳酒”というのを入手したよ!」
「今日は“鶏冠酒”というのが見つかったぜ!」
「あははは、“雀舌酒”━これはなかなか洒落てるね!」
「こっちは“羊骨酒”だ! うははは、ウールマークでも申請するか!」
「“猿尻酒”っていうのを見つけた! もちろん赤色さ!」
「ひひひひ、“豚足酒”だぜ! これは料理酒でアリだろ!」
俺は初めて精神(こころ)を麻痺させるために飲む酒を知った。
毎日、浴びる様に酒を飲み、大脳辺縁系が望むに任せて、時に大泣きし、時にはゲラゲラ笑いながら“作業”を進めた。常に発狂の予感と隣り合わせの毎日だった。
しかし、正気と狂気の縁を走る俺達のチキンレースは、槇村の“馬蹄酒”の提出をもって手詰まりになる。
これを超えるには、ゾウ酒? カバ酒? そんなもの捕まるわけがない。
いや、それ以前に、巨体を浸す酒瓶が存在しないのではないか。
既に正常な判断力を失いつつあるのか━俺は用意し得るものなのかを、あくまで真面目に河童橋の容器専門店で訊ねてみた。
店主は呆れながらも、その問い合わせが本日二度目である事を教えてくれた。獲物はクロサイ━確認するまでもない。槇村も同じ所に行きついているのだ。
俺は焦った。アルコールで蕩けた脳みそを駆使し、懸命に打開策を探った。