小説「サークル○サークル」01-84. 「動揺」

 ヒサシもアスカのその動作に我に返ったのか、はたまたこれ以上は無理と踏んだのか、アスカから手を離し、席に座る。
 アスカは言いたいことをぐっと堪えて、ヒサシを睨みつけると、その場を後にした。
 まさか、ヒサシがあんな行動に出るとは、アスカは夢にも思っていなかった。
 適当に女を口説き、自分に靡きそうな女だけを相手にしているのだと思っていた。けれど、ヒサシは違う。自分が手に入れたいと思った女は悉く手に入れないと気が済まないタイプなのだ。タチが悪いな、とアスカは思う。マキコから再依頼があれば、手段を選ばないような男と対峙しなければならないのだ。勿論、今までだって、こういうケースがなかったわけではなかった。けれど、自分がここまで標的にされることもなかったのだ。あくまで、アスカ自身が近付いていき、相手をその気にさせる程度だった。しかし、今回の場合は違う。まだ本格的に接近もしていないのにアスカはターゲットにされているのだ。作戦をきっちり練らなければ相手のペースにハマるだけだ、とアスカは分析する。だが、彼女は狼狽えてもいた。あの時――キスをされた時、不覚にもトキメキを覚える自分がいたのだ。こんなこともこの仕事を始めてから初めてのことだった。


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