「サシアイ」6話

(あっ━)
 驚いた事に、そのハブは一つの胴体から二つの頭が生えている。いわゆる“双頭の蛇”という代物だったのだ。
「これは……、頭が二つ!?」
「珍しいでしょ? 稀にある奇形でさ。
 このハブ酒の製法自体は特別なものじゃないけど、縁起物と見る向きもあって結構な値がしたよ」
 確かに希少価値としては抜群だろう。
 珍しい酒を持ち寄るという今日の試飲会の趣旨からすると、これは一歩譲らざるを得ない気もする。
 しかし、チラリとのぞき見た槇村の表情に、勝者の色はなかった。槇村は槇村で、俺の酒の方が、稀少と思っているのかもしれない。
 ここで下手なアピールをしては恥をかく事になりそうだ。引き分け、再戦へと持ち込もう。
「ま、まあ、これは俺が集めた秘蔵の酒のごく一部だけどな」
 案の定、槇村は俺の話に乗ってきた。
「ああ、僕も見せたいお酒がまだまだあるよ」
「じゃあ、希少酒という同じテーマでリマッチといくか?」
「OK、そうしよう━」
 うまく話をまとめた様で、何の事はない、すべての問題の先送りである。
 そして、この日を境に俺達の流浪の旅が始まった。


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