小説「サークル○サークル」01-78. 「動揺」
- 2012年04月07日
- 小説「サークル○サークル」
- サークル○サークル
ヒサシは珍しくバーボンを頼んだ。アスカはオーダーされたバーボンとミックスナッツを持って、ヒサシの元へと行く。ヒサシのところにオーダーの品を持って行くだけなのに、ドキドキする自分に内心苦笑した。これではまるで片思いをしている中学生のようではないか。
ヒサシの前に着くと、アスカはオーダーの品をテーブルの上に置いた。
「バーボンとミックスナッツでございます」
アスカの姿を見て、ヒサシは笑みを零した。瞬間、アスカは胸の奥がきゅんとしたことに驚いた。完全に自分がヒサシに気持ちを奪われていることに気が付いた瞬間だった。
「今日は一人なんだ」
訊いてもいないのにヒサシは言った。
「そうなんですね」
「今、珍しいと思ったでしょう?」
「はい」
アスカは素直に答えた。今更、ヒサシになんの遠慮がいると言うのだろう。嫌という程、ヒサシが違う女を連れて来ていたのを見ていたのだ。
「たまには一人で飲みたくなることもあるんですよ」
ヒサシは言って、苦笑する。伏し目がちの目に何だか哀愁まで感じてしまうから不思議だ。完全にヒサシに心を奪われているのだ、とアスカは思った。どこか冷静でいられるのは、彼女がヒサシとの接触は仕事の一環だという自覚をしているからに他ならない。けれど、いつか仕事だというこの自覚を飛び越えてしまいそうなことに、アスカは不安を感じていた。